カチオン電着塗装は、被塗装物を導電性水性塗料中に浸漬(ディッピング)し、被塗装物を(-)極、塗料を(+)極として被塗装物と電極の間に直流電流を流すことで、被塗装物に塗膜を析出させる塗装方法です。
カチオン電着塗装は膜厚が均一で、焼き付けを行うことで錆びや腐食に強くなるという特徴を持っています。
塗装品質や生産性の高さから、1970年代に自動車部品の塗装に用いられるようになり、近年では、産業機械部品をはじめとしてさまざまな分野での用途が広がっています。
カチオン電着塗装とは技術的特徴と他手法との比較
カチオン電着塗装とは
技術的な特徴
カチオン電着塗装には、他の塗装方法にはない特徴があります。
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防錆力
カチオン電着塗装は、防錆力に優れた塗装方法です。
まず、カチオン電着塗装は製品の隅々まで塗料を均一に析出させることができます。この塗膜は素材への密着性が高いため、錆びや腐食を寄せつけません。
さらに、電着工程の次に行われる焼付け工程で塗膜が硬化し、優れた防錆力を発揮することができるのです。 -
優れたつきまわり性
カチオン電着塗装は、吹付塗装や溶剤塗装では対応できないような複雑な形状の部品でも、隅々までしっかりと塗装することができます。このような塗膜の析出のしやすさ、回り込みやすさを「つきまわり性」と呼びます。 -
均一な膜厚
製品を導電性水性塗料にディッピングし、電気化学的反応により塗膜を析出させるため、均一な膜厚にできます。
また、塗装工程は自動化されているため、手作業によるムラが生じません。 -
環境への配慮
水性の塗料を使用するため、VOC(揮発性有機化合物)の排出が少なく火災のリスクも低いのが特徴です。
有害金属を含まない製品も多く、環境負荷が低い塗装方法です。 これらの特徴から、カチオン電着塗装は、環境に配慮した塗装方法として評価されています。 -
コストパフォーマンス
カチオン電着塗装は塗料の回収率が高く、塗料の使用量を抑えることができるため塗料コストを削減できます。
また、塗装工程は自動化されているため省人化が可能です。
つきまわり性の良い塗装方法なので、塗装の手直しの手間も省くことができます。
高い防錆力を発揮するので、製品の長寿命化につながり、実際に製品を利用するお客様にとってもコストパフォーマンスが高い塗装方法だと言えます。 -
外観のばらつきが少ない
製品表面全体に均一な膜厚を実現できるため、色のムラが少なく、きれいな外観が得られます。吹付塗装や溶剤塗装では、部位によって塗膜の厚さにばらつきが生じやすく、色のムラが目立つことがありますが、カチオン電着塗装は塗料のタレやニジミなどの欠陥も少なくできます。
メリットとデメリット
(他手法との比較)
塗装にはカチオン電着塗装以外にもさまざまな方法があります。以下の表は各種塗装方法別に特徴をまとめたものです。
項目 | カチオン電着塗装 | 吹付塗装 | 粉体塗装 | 静電塗装 | 溶剤塗装 |
---|---|---|---|---|---|
防錆力 | ◎ | △ | ○ | ○ | △ |
密着性 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ |
つきまわり性 | ◎ | △ | ○ | ○ | △ |
膜厚の均一性 | ◎ | △ | ○ | ○ | △ |
生産性 | ◎ | △ | ○ | ○ | △ |
環境負荷 | ◎ | △ | ◎ | ○ | △ |
コストパフォーマンス | ◎ | ○ | ○ | ○ | △ |
外観のムラ | ◎ | △ | ○ | ○ | △ |
設備コスト | △ | ○ | △ | △ | ○ |
部品形状への対応 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ |
対応素材範囲 | △ | ○ | △ | △ | ○ |
塗装色 | △ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ |
職人の塗装技術 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
凡例: ◎ 優れている ○ 良い △ やや劣る
カチオン電着塗装は防錆力、密着性、膜厚の均一性などの点で優れており、吹付塗装のように熟練工が対応する必要もありません。大量生産・連続生産に適しているので、塗装工程の生産性を高める事が可能です。
ただし、塗装工程において熟練工は必要ありませんが、品質管理面では熟練者が対応する必要があります。
ただし、塗装工程において熟練工は必要ありませんが、品質管理面では熟練者が対応する必要があります。
一方で、カチオン電着塗装は設備コストが高く、製品素材が通電性のあるものに限定されるといったデメリットもあります。黒以外の塗料で塗装することは困難で、2度塗りができません。
カチオン電着塗装は、水溶性で溶剤による大気汚染がありません。有害金属を含まない製品が多く、引火性も低く安全性が高いという特徴があります。塗料のロスも少なく、人にも環境にも優しいSDGsにマッチした塗装方法です。
各種塗装方法にはそれぞれ違った特徴があります。部品塗装を検討する場合は、用途や部品形状、素材、コスト面などを考慮し、適切な塗装方法を選択することが重要です。
タマ化工のカチオン電着塗装の特徴
タマ化工は40年以上の実績があり、確かな品質をお客様にお届けしています。
厳しい品質基準をクリア
タマ化工では、膜厚管理、密着性管理、塩温水試験機による防錆力の管理などを実施し、自動車メーカーの中でも最も厳しい品質基準であるHES規格をクリアしています。更にHESの上位互換にあたる本田技研工業様向けの「5100Z-TR0-6001」スペックもクリアしています。
特に、熟練の職人が製品のエアブローやシーラーを実施し、仕上がりの品質を高めていることがタマ化工の特徴です。
特に、熟練の職人が製品のエアブローやシーラーを実施し、仕上がりの品質を高めていることがタマ化工の特徴です。
大型部品から小物部品まで対応可能
最大、長さ2,000mm×高さ1,300mm×幅600mmの大きさに対応できます。大きい製品は当社の得意分野です。
もちろん小物部品の塗装実績も多数あります。大型部品から小物部品までタマ化工にお任せください。
もちろん小物部品の塗装実績も多数あります。大型部品から小物部品までタマ化工にお任せください。
ディップ方式による均一でムラのない塗装
製品の前処理から電着塗装までディップ方式で行うため、合わせ目、内面・端面にも塗装ができ、形状・構造に関係なく均一な塗膜の析出が可能です。
工程の流れ
タマ化工のカチオン電着塗装の工程は、エアブローとシーラーがある事が特長で、
どちらも職人の手作業で素早くおこなわれます。
どちらも職人の手作業で素早くおこなわれます。
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素材受入お客様から日々納入される多種多様な製品を受け入れています。
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吊掛けお客様から日々納入される多種多様な製品を受け入れています。
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前処理製品に付着した脂分や汚れを取り除き、リン酸亜鉛皮膜を形成させます。
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電着塗料液に浸漬させ、均一な塗膜を形成させます。
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エアブロー・
シーラー職人による素早い手作業で品質をより高めます。 -
脱荷・外観検査一つずつ製品をハンガーから外し、外観を検査します。
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小物組付・梱包塗装後の製品への小物組付(バンド掛け等)や梱包をおこないます。
よくある質問
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どのような用途で使われるか
カチオン電着塗装は、自動車のような複雑な構造の部品の塗装方法として最も適しています。優れた防錆力や密着性、仕上がりのよさから自動車部品やボディには欠かせない塗装方法です。
その他にも、製品の防錆力が重要視される、建設機械、農業機械、家電製品、スチール金具、農機具、建材、鋳物、電子部品、業務用空調・加湿器などの塗装にも用いられています。 -
対応する素材はどのようなものか
カチオン電着塗装では通電を必要とするため、対応できる素材は電気が通るものに限定されます。当社では最も一般的な対応素材である鉄に対して主に電着塗装を行っております。自動車部品や産業機械部品など、多くの用途で活用されています。 -
防錆力はどれくらいか
カチオン電着塗装は、合わせ目、内面・端面にも塗装ができます。塗膜と素材の密着性も高いため、長期使用においても塗膜の剥がれや割れが起きにくく、優れた防錆力を発揮します。
当社では、濃度5%、温度55℃の塩水にクロスカットした試験片を240時間浸漬させ腐食がないことを確認しています。 -
絶縁性はあるか
エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの絶縁性塗料で表面がコーティングされるため、カチオン電着塗装で塗装した部品は絶縁性に優れています。
高い絶縁性が求められる電子部品や家電製品にも活用されています。